入管難民法の政府改定案に対する共同声明

入管難民法の政府改定案に対する共同声明


2021年3月2日
クルドを知る会
クルド難民弁護団
日本クルド文化協会
クルド人難民Mさんを支援する会


在日クルド人難民申請者の状況
埼玉県の川口市・蕨市にはトルコ国籍のクルド人が2000人ほど住んでいるといわれており、その多くが難民申請をしています。しかし正確な人数は分かりません。なぜならば入管から仮放免、あるいは短期滞在の在留資格しか与えられない人たちが住民登録されていないからです。そこには20年近く日本で暮らしてきた人たち、幼少期から日本で育った、あるいは日本で生まれた子どもたちもたくさんいます。

 仮放免や短期滞在の状態では就労が禁止され、健康保険にも加入できず、住民登録がされないため住居を借りることも困難となります。特に被仮放免者は、県境をまたいで移動することも制限され、いつ入管に収容されるか、強制退去となるかわからない非常に不安定な状態で生きています。時には『不法滞在(者)』などという差別的な上、法律用語でもなんでもない言葉を投げつけられることさえあるのです。子どもたちの中には、生まれたときから仮放免である子や、大学などで学んでいても在留資格が与えられていないために就職できない子もいます。

難民条約違反の政府改定案
 2月19日、出入国管理法の改定案が閣議決定されました。入管による長期収容という切迫した問題を改善することが目的であったはずですが、改定案の中で一番驚いたのは、3回以上の難民申請を認めず、強制送還を可能にするというものでした。難民申請が却下された後も繰り返し申請する人が多く、また退去強制処分の対象とされても送還を拒否することが長期収容の原因となっている、というのが入管側の言い分です。

 しかし日本の難民認定の条件はあまりにも厳しく、他の先進国であれば難民認定されるはずの人が難民として認められず、申請が却下されています。そのため帰国すれば迫害を受ける恐れのある人は、現実問題として何度も申請するしかないのです。そのような難民申請者を強制送還することは、迫害を受ける恐れがある国への追放や送還を禁止した難民条約の第33条「ノン・ルフールマン原則」に反しています。これでは初めから難民を受け入れる気がないと言われても仕方がなく、日本が批准している国際条約である難民条約に違反することになります。
 日本に住むトルコ出身のクルド人難民申請者のなかで、難民認定された人はこれまで一人もいません。しかし同じトルコ出身の難民申請者でも、カナダでは97.5%、米国では86.2%と8~9割以上が認定されています。ドイツは45.2%ですが5,232人が認定されています(UNHCR GLOBAL TRENDS FORCED DISPLACEMENT IN 2019, 法務省HP「令和元年における難民認定者数等について」)。日本の難民認定率は0・4%と格段に低く、難民条約に加盟しながらもほとんど認めていないため「難民鎖国」と揶揄されています。そもそも出入国の管理をする省庁が同時に難民認定を審査する構造にも、大きな問題があります。

 さらに今回の改定案は、退去強制を拒否した人に対して刑事罰を設けています。これは、庇護国へ非正規で入国し、また非正規にいることを理由として、難民を罰してはいけないという難民条約の第31条に違反します。これまで国連の拷問禁止委員会や人種差別撤廃委員会等の条約機関は、上限のない入管収容や司法審査の欠如などについて繰り返し勧告を行ってきましたが、そうした点については何ら触れられていません。

監理措置制度ではなく在留資格を
 政府改定案には収容の代替措置として新たに監理措置制度が加えられていますが、就労も原則禁止、健康保険や生活保護受給の資格もない状態では、現在の仮放免と同じで社会生活はできません。むしろ監理措置制度では、支援者らに対象となる難民申請者の監視と入管への報告を義務付け、それに反すれば罰則を科すなど、当事者と支援者との信頼関係を断ち切ることにもなり兼ねません。また、監理措置の判断は入管が行い、司法の関与はないため、これまでと同じく中立性・公平性・透明性は望めず、監理措置の対象とならなければ上限のない収容は続きます。無期限収容を温存したままでは根本的な解決にはまったくつながりません。
昨年12月、川口市の奥ノ木市長が在日クルド人難民申請者の被仮放免者の生活について、上川法務大臣に国としての役割を求めて要望書を提出しましたが、その中で「複数人による仮放免者の身元を保証する仕組みの導入など、就労を可能とする制度」の構築を求めています。ここで求めた制度が今回の監理措置制度であってはならないと私たちは考えています。

 今、必要なのは監理措置制度ではなく、被仮放免者に在留資格を与え、日本で人間らしく生きられるようにすることです。
 そして、強制退去に該当すると入管が決めた人をすべて収容する「全件収容主義」を改め、収容の要件を限定し、その判断は司法機関に委ね、収容期間の上限を設けることが必要です。また根本的に間違っている日本の入管難民法の制度そのものを正しく変革するためには、今度こそ出入国在留管理庁から独立した難民認定機関を新設することが必須です。
私たちは、今回の入管難民法の政府改定案に反対です。
野党提出の国際基準に沿った「難民等保護法案」・「入管法改正案」に賛成します。

 
入管難民法の政府改定案に対する共同声明(PDF)